相続の際に相続人への通知が必要な理由
・遺産分割協議は相続人全員参加が必要
被相続人が亡くなると、相続が開始し、遺言書がある場合には遺言の内容に従い、遺言書がないときは遺産分割協議によって遺産分割を行うことになります。(ただし、遺言書がない場合でも、相続人全員の同意があれば、別の方法で遺産分割をしてもかまいません)
その際は、相続人となる者全員と連絡をとり、相続が開始したことや遺産分割への協力が必要な旨を通知しなければなりません。
遺産分割協議は、民法で決められた法定相続人全員が参加しなければ無効となるという決まりがあります。
そのため、面識のない相続人であっても、相続の際は全員に手紙等で通知する必要があるのです。
また、相続税の申告は相続の開始から10か月以内に行うとされているところ、各相続人が負う相続税の金額も考慮に入れて遺産分割をしたいときは、疎遠な相続人とも連絡をとり、誰が相続人となるのかを早期に確定しなければなりません。
・疎遠な相続人にも通知が必要
相続があったときは、日常的に連絡を取っていない親戚関係だけでなく、過去に縁を切ってしまったような関係性であっても、相続人である限りは必ず連絡をとらなければなりません。
疎遠な相続人の具体例としては、以下のような人が考えられます。
- 被相続人が過去に認知した子
- 被相続人の前配偶者の子
- 被相続人の兄弟またはその代襲相続人
民法上、被相続人の配偶者は常に相続人となります。
加えて、子がいるときは子が第一順位、子がいないときは直系尊属(両親や祖父母)が第二順位の相続人の地位を有します。
配偶者がおらず、子も両親もいないときは、第三順位の兄弟姉妹が相続人となり、兄弟姉妹が亡くなっているときはその子どもが代襲相続人になるため、あまり面識のない者同士で相続手続きを行うことがありえるのです。
相続開始から相続人に手紙を出すまでの流れ
1.戸籍謄本を集めて相続人を確定する
まずは相続人の確定をするために、被相続人の戸籍謄本を集めて相続人の数および法定相続分の割合を確定します。
手紙を出す前に相続人を確定しておかないと、連絡を受けた親戚としても自分の相続割合が分からず、返答のしようがないためです。
「相続関係説明図」を作成しておけば、各相続人と被相続人の関係をまとめることができます。
2.被相続人の財産を確認する
次に、被相続人の財産の確認をし、不動産・預貯金をまとめた財産目録を作成します。
相続人への通知の際は、トラブルを避けるため、たとえ疎遠な親戚であったとしてもこの段階で分かった遺産については預貯金だけでなく不動産も含めて包み隠さず伝えるべきといえます。
3.面識のない相続人の住所を調査する
面識のない相続人に手紙を出すため、当該相続人の住所を調査します。
疎遠な親戚がいるときは、ほかの親族にあたってみても電話番号や住所が分からないことが少なくありません。
このようなときは、戸籍の確認の際に「戸籍の附票」を請求しておくことがポイントになります。
戸籍の附票を取得するには、まず戸籍謄本でその相続人の本籍地を確認します。
そして、相続人の本籍地の市区町村役場で戸籍の附票を請求します。
ただ、関係性の遠い親族の証明書を個人で取得するのは難しいため、司法書士や行政書士に依頼をした方が、職権でスムーズに取得することができるでしょう。
※相手の住所がわかっても、いきなり自宅を訪ねることは控えましょう。
相手を驚かせて(怒らせて)しまい、その後の話し合いができなくなるおそれがあります。
通知の手紙を出す場合の注意点
面識のない相続人に相続手続きへの参加をお願いするときは、事前準備を行い、手紙の文面も慎重に考えなければなりません。
手紙の印象が不誠実であったり、一方的な内容であったりすると、相手方に不信感を抱かれて連絡がとれないまま相続手続きが進まないおそれがあります。通知の手紙が争族の発端とならないように注意が必要です。
1.戸籍謄本を集め相続分を確定してから手紙を出す
相続人への通知の際は、手紙を出す前に、全ての戸籍謄本を集めて相続人を確定させておくようにします。
相続人および各相続分が確定していないと、手紙を受け取った相手から相続分を質問されても答えることができず、不信感を持たれてやり取りが停滞するおそれがあります。
2.最初の手紙は専門家ではなく自分で書く
最初の手紙は、専門家に依頼するのではなく、ご自分で書くようにしましょう。
相続のために必要な手続きとはいえ、突然知らない専門家事務所などから封筒が届くというのは誰であっても気分の良いものではありません。
3.最初の連絡は相続の経緯説明にとどめる
最初の手紙では遺産分割の具体的な話はせず「相続が開始したことの説明」「相続手続きに協力してほしい旨のお願い」程度にとどめておきましょう。
最初の手紙からいきなり遺産分割の話をすると、不審に思われて、無視されてしまうことも少なくありません。
面識のない相続人へ手紙を書く際のポイント
自分が何者なのかをはっきりと示す
まず、手紙のはじめに、今回亡くなった被相続人と、ご自身のお名前、被相続人との続柄を記載し、自分が何者なのかをはっきりと示します。
これらの記載は、手紙が詐欺やいたずらではないことを示すという目的もあります。
「しばらく連絡は取りあっていないが、名前くらいは覚えているだろう」と思ったとしても、必ず記載すべきといえます。
被相続人が亡くなった経緯を示す
つぎに、相続が開始したことの説明として、被相続人が亡くなった経緯を示します。
差し障りのない範囲で、被相続人が亡くなった日時やご年齢、どのように亡くなったのかなどを記載します。
相続財産について協力して欲しい旨を伝える
そして、遺産分割協議をしたい旨、相談に協力して欲しい旨をお願いする文章を記載します。
ここで注意すべきは、一方的な遺産分割案を提示することは控えたがいいということです。
相手の気分を害するかもしれませんし、トラブルのもととなるおそれがあります。
また、相続財産の内容(不動産・預貯金など)や各相続人の法定相続分を記載する場合は、包み隠さず全て記載するべきです。
長年疎遠な親戚に対して財産の内容まで伝えたくない気持ちも理解できるのですが、手紙を受け取る側としても、財産の内容や相続分の割合が分からなければ返答のしようがありません。
相続手続への協力をお願いしたいという旨の穏やかな文面のなかで、今わかっている範囲ですべての財産を伝えましょう。
「○月○日迄にご連絡ください」と期日を設ける
面識のない親戚から手紙が届くと、何だか面倒だからという理由で無視されてしまうことが少なくありません。
連絡がつかない限り、遺産分割手続を行えないため、期日を設けて連絡をもらえるようお願いしましょう。
また、相続税の計算も考慮に入れたいときは、相続税の計算には期限がある(相続開始から10か月以内)旨を伝えておくとより確実です。
このときも、一方的な要求ではなく、あくまでお願いするような形の穏やかな文面で書くようにしましょう。
疎遠な親戚から期限付きで連絡を求められるというだけで、警戒されてしまうおそれがあるためです。
手紙の文面例
△△ △△ 様
拝啓
突然お手紙を差し上げます失礼をお許しください。
私の父、○○ ○○(住所 ○○県○○市12-3、生年月日 昭和〇年○月○日)は、かねてより病気療養中のところ、令和○年○月○日に永眠致しました。
この度、父の相続手続きを行うにあたり、必要な書類を集めたりしていたところ、12-3様も相続人であることがわかりました。
相続手続きには、△△様を含め相続人全員の合意が必要なため、相続人の一員でいらっしゃいます△△様のご協力を頂きたく、ご連絡を差し上げた次第でございます。
父の相続に際しましては、△△様のお気持ちをお伺いしたうえで、相続人全員が納得できる形で手続きを進めてまいりたいと存じます。
つきましては、この度の経緯と今後必要な手続きにつきまして、一度ご説明させて頂くため、△△様のお時間をお借りしたく存じます。
突然のご連絡でこのようなお願いを致しまして大変申し訳ございませんが、一度私、□□ □□(000-0000-0000)までご連絡を頂けないでしょうか。
または、同封の封筒にて△△様のご連絡先の電話番号をお知らせいただければ、私からご連絡差し上げたいと存じます。
いずれかの方法で、今月末日までにご連絡いただけますと幸いです。
ご多忙の折お手数をお掛けいたしますが、何卒ご協力いただけますようお願い申し上げます。
敬具
令和〇年〇月〇日
□□ □□(差出人の名前)
〒○○○-○○○○
○○県○○市○○○町12-3
通知を出した後の流れ
通知の手紙を出した後、本人からの電話や手紙、あるいは代理人弁護士からの連絡があり、相続手続きに協力する旨の意思表示を確認できたら、この段階で初めて遺産分割協議に入ることができます。
遺産分割協議で相続財産を分配する
- 遺産に不動産が含まれる場合
どれだけ相続割合が小さくても、相続人は相続財産の全部に対し、持分に応じた権利を有しています。
そのため、通知を受けた親戚から「不動産を売却して代金で分割してほしい」と希望されることがあります。
このとき、当該不動産に誰も住んでいない場合には、希望通り売却して代金で分割することもできるでしょう。
しかし、誰かが自宅として利用しているような場合には簡単に売却というわけにもいきません。
もし通知先の相続人から、不動産の売却と代金分割を希望された場合は、預貯金の額を多めに渡すか、代償分割の方法を使うなどによる解決が考えられます。
- 遺産に不動産が含まれない場合
遺産に不動産が含まれない場合、基本的には、各相続人の法定相続分に応じて遺産の預貯金を分配することで解決します。
解約した預貯金や不動産の名義変更をしたうえで財産を分けて、遺産分割は完了です。
「相続放棄する」との返答があった場合
民法上、相続財産などの積極財産および借金などの消極財産のいずれも引き継ぎたくない場合は、法律所定の期間内に各相続人の意思表示をすることで、相続放棄をすることができます。
疎遠な相続人に通知をした後、当該相続人が相続放棄の意思表示をした場合には、その人は相続人の地位を有さなくなるため、遺産分割協議に参加してもらう必要はありません。
もっとも、相続放棄をしたうえで、いくらか財産が欲しいと希望される場合があります。
その際は遺族の判断で、相続財産のなかからいくらかの預金を渡すことも可能です。
ただし、相続放棄をした者に対して遺産を分ける行為は相続ではなく贈与にあたるため、贈与税が発生することに注意が必要です。
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