ペット法務の必要性

犬や猫などのペットは相続の対象となる

犬や猫などのペットは、法律的解釈では「動産(物)」になり相続財産として扱われますので、ペットは相続の対象になります。

ここで問題になるのが、ペットをスムーズに相続できるのか?という事です。

被相続人と相続人が同居していた場合は比較的スムーズに進むと思いますが、そうでない場合はどうでしょうか?

飼育環境の問題、住宅環境の問題、動物アレルギーの問題、そして飼育費の問題等、様々な問題が噴出してきます。

自分が亡くなった後は誰かが面倒をみてくれるだろうと思っていても、誰が飼うか親族間で押し付け合いになることもあります。

さらに引き取り手がいないと、最悪の場合、殺処分されてしまうこともあります。

そのような事態にならないためには、ペットに新しい飼い主と財産を準備しておく必要があります。

飼い主さん亡き後、行き場を失ったペット達がつらく悲しい思いをしないように、飼い主であるご自身が存命中にしっかりと手を打っておきましょう。

遺言で負担付遺贈をおこなう

『遺言で負担付遺贈をおこなう』とは、お世話をしてくれる人に飼育費を遺贈し、ペットのために使ってもらうことをいいます。

 特定の相手に遺産を残す方法として、遺言書の作成が挙げられますが、財産を残せるのは人または法人に対してのみのため、ペットに直接財産を残す旨を遺言書で指定することはできません。

しかし、犬や猫などのペットは「動産」という財産なので、遺言書を活用して、ペット達を引き渡す事は可能です。

※ペットのお世話を依頼することは法定遺言事項にはあたりません。付言事項であり、お世話をしてくれる保証はありません。

ただし、ペットのお世話を負担付遺贈の負担と位置付ければ法定遺言事項になります。

負担付き遺贈の注意事項

(1)ペットを引き取ってもらうのは飼い主さんが亡くなった後となるため、きちんとお世話をしてくれているかを自分の目で確かめることはできません。

そこで、財産だけもらってペットのお世話を怠るようなことにならないよう、遺言執行者を指定しておくことをおすすめします。

遺言執行者はペットを引き取ってくれた人がその義務を果たすかどうかチェックし、履行されないようであれば注意・勧告を与え、それでも改善しない場合は遺贈をなかったことにすることができます。

遺言でペットのお世話を頼まれたのに、そのお世話をきちんと果たしていない、という場合の対処の仕方としては「負担付遺贈」に係る遺言の取り消しという制度があるからです。(民法1027条)

(2)ペットのお世話と引き換えに遺贈する財産が他の相続人の遺留分を侵害した場合、遺留分をめぐって争いとなる可能性があります。

なので、ペットのためにできるだけ財産を残したいと思っても、引き取ってくれた人が相続トラブルに巻き込まれないよう他の相続人が少なくとも遺留分相当の財産を相続できるように遺言で指定するほうが良いでしょう。

(3)ペットの世話と引き換えに財産を残す場合、一方的に世話をしてもらう相手を指定しても遺贈を放棄されてしまう可能性があります。財産だけ受け取って、ペットの飼育を放棄するようなことがあってはいけません。

放棄があった場合、大半は保健所へ収容されることになります。その後、民間の動物愛護団体や里親ボランティアが譲渡先(里親)を探す協力をしてくれますが、譲渡先が見つからない場合は、保健所にて殺処分されてしまいます。

また、遺言書通りに「ペットの譲渡先」がペット達を相続したとしても、そこにペット達に対する愛情が無ければ、そのペット達を保健所に持ち込んでしまうケースも少なくないかと思います

このため、できるなら動物好きで無償でも世話を引き受けてくれるくらいの人を選ぶのがベストです。

また、高齢の方に引き取ってもらうと、その方に万が一のことがあった場合、再度別の飼い主の手に渡ることになるかもしれません。

その際はペットがどのような状況に置かれるかわからないため、ペットの寿命も考えて最後までお世話をしてもらえる人を選びましょう。

(4)生涯にかかる飼育費用はその大きさにもよりますが、犬で300万~500万円、猫で100万~200万円程と言われています。

しかしこれは餌の種類や医療費のかけ方など、どのような世話をおこなうかで大きく差が出ます。

また、人間と同様にペットも歳をとるにつれて医療費がかかる傾向があります。

現在は餌代くらいしかかからなくても、将来的には通院や入院費用がかさむ可能性があります。

負担付遺贈は「負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ負担した義務を履行する責任を負う」と民法第1002条第1項で定められています。

つまり、ペットの餌代や医療費の合計が遺贈された財産を超えた場合、受遺者はそれ以上ペットのための費用を負担しなくてもいいということなので、最悪の場合、飼育放棄につながることもあり得ます。

負担付き遺贈を用いる場合は、生涯かかる餌代や医療費や供養代などを計算し、これらが不足することがないように遺贈する金額を設定した上でお世話をしてくれる人を決め、条件を提示して相手の了承を取っておく必要があります。

負担付き死因贈与契約の締結

「負担付き死因贈与契約」とは、贈与者(飼主)が亡くなった場合に、受贈者(ペット達を看てくれる方)に財産を譲渡する見返りとして、ペット達が死亡するまでお世話をしてもらうという贈与契約です。

現飼い主が独断で決められる遺贈と違い、贈与者(現飼い主)と受贈者(世話を引き受ける人)双方の明確な意思・合意によっておこなわれる契約行為となります。

負担付遺贈はあくまで遺言なので、遺言者本人の気持ちが変わればいつでも遺言を撤回してしまえば良いですが、負担付死因贈与は契約のため、解除する場合は贈与者(あげる側)と受贈者(もらう側)の合意が必要となります。

つまり、ペットの世話を引き受けることを双方の同意の上で契約を結ぶため、一方的に破棄されることはなくなります。

また、贈与者亡き後も受贈者が契約通りにお世話しているかを管理するための、死因贈与執行者を指定することが出来ます。

贈与者亡き後、受贈者が負担の義務を履行しなかった場合は、死因贈与執行者は契約を解除することできます。

贈与の条件(義務)であるペットの面倒をみることが死後になる場合は、受贈者は贈与者が亡くなるまで、負担の義務を履行する必要がなく、簡単には贈与契約の解除ができないため、契約に及ぶ際は慎重な判断が必要となるのが負担付死因贈与です。

負担付き死因贈与契約の注意事項

死因贈与で受け取る財産には、遺贈と同様に相続税がかかります。

また、死因贈与により受贈者と贈与者の相続人との間にトラブルが生じることもあるため、契約を公正証書にしておくことをおすすめします。

なお、ペットの飼育を放棄するようなら、その負担を履行しないという理由で贈与契約を解除をすることができる旨規定しておくのも一案です。

飼い主が死亡したことで効力が生じる負担付遺贈と違って、負担付死因贈与であれば存命中のうちからペットのお世話をお願いすることも可能です。

ただし、契約行為で行う以上は、ペットのお世話をお願いする相手方をしっかりと見極めることが重要です。

負担付生前贈与契約の締結

ご自身のもしものことを考えると、生きている間にペットと財産を新しい飼い主に引き渡す検討も必要です。

ペットの世話と引き換えに生前贈与をおこなう際は、「負担付生前贈与契約」を交わします。

遺贈や死因贈与とは違い、契約により定められた時点から飼い主の生死に関わらず飼育義務が発生します。

このため、長期入院や介護施設等に入居する場合にも有効な方法となります。

ただし、生前贈与で注意したいのは贈与税です。

年間110万円の基礎控除額はありますが、それを超えると贈与税がかかります。

遺産の総額や法定相続人の数などにより変わりますが、生前贈与の方が税金が高くなることも多いです。

ペットの信託契約の締結

ペットの信託契約とは、ペットを守ることを達成させるために、飼い主さん (委託者) が信頼できる第三者 (受託者) と契約を交わし、『自分に万が一のことがあった時に備えてペットの飼育費を管理し、その時が訪れたらペットを飼育してくれる人または施設等(受益者)に飼育費を支払う』ということを訳す契約です。

ペットの信託は、ペットのために残す財産を相続財産から生前に切り離して、受託者に託し、委託者が亡くなった場合だけでなく、施設に入居することになったり認知症になったりしてペットの世話ができなくなったときに、その財産から飼育費や医療費を支払う仕組みです。

ペット信託を利用する場合は、委託者と受託者の間で信託契約を結び、信託専用口座も開設して資金を入金します。

専用口座のお金は相続財産に含めないので、相続人に争いが起きても飼育費の支払いが滞ることはありませんし、ペット信託など専用口座への入金は相続財産には含まれないため、相続税の対象にはなりません。

また信託監督人といって、指定した飼育方法を守れているのかのチェックが入ります。

「自分が死んだ後も、ペットにはいい生活を送ってほしい」と思われる方は、ペット信託で細かく飼育状況を指定するのがいいでしょう。

ペット自体に相続税はかかりませんが、負担付遺贈や負担付死因贈与など、ペットと一緒に現金等を渡す場合は課税対象になります。

ただし、ペット信託など専用口座への入金は相続財産には含まれないため、相続税の対象にはなりません。

ペットのための信託は比較的新しい仕組みですので、利用の際はできる限り精通している専門家に相談して決めることをおすすめします。

飼主がペットのために生前確認しておくべきこと

(1)誰が(どこが)面倒を看てくれるのか?

(2)どこで、面倒を看てくれるのか?(飼育環境)

(3)終末期医療の為の入院や介護施設に入居した際の受け入れ先

(4)飼い主さん亡き後のペット達の飼育費

(5)ペット達の死後の整理(ペット火葬や供養など)

※これらはとても重要なことですので、しっかりと確認しましょう。

(補足ですが)もしもに備えて、ペット緊急連絡先カードの携帯

1人暮らしでペットを飼っている人やお仕事等でペットにお留守番を任せている人が、病気や急病もしくは事故などで病院に運ばれて亡くなったり意識が戻らない場合、家にいるペットの命にも関わります。

最悪の事態を防ぐためには、ペットの存在を他人に知らせる「ペット緊急連絡先カード」を携帯することをおすすめします。

「ペット緊急連絡先カード」は市販されている他に、ネットでも購入できます。

飼い主さんやペットの情報の他に、かかりつけの動物病院や緊急時に引き取ってくれる方の連絡先も忘れずに記載しましょう。

参  考

※平成25年9月1日より動物愛護管理法が改正されペットの終生飼養について明示されてます

これは、犬や猫などのペットを一旦迎え入れた場合、その個体の面倒を生涯に渡り、見届けなくてはならないというものです。

「終生飼養」という文言が追加された背景としては、一時的な感情により、安易にペット達を迎え入れてしまい、ペット達と生活していく中で、その感情が冷めてしまい、飼主の一方的な都合により保健所へ持ち込まれた結果、犬猫の殺処分が年々増えていたという社会背景があります。

民法上、犬や猫などのペット達は「動産」として扱われますが、動物愛護管理法において「終生飼養」を義務化した事により、飼主の「命」に対する責任を明確にしたものと思われます。

そして、この法改正は「飼い主の自己都合や飼い方に問題があり、そのために動物たちの生きるべき権利を奪われ、寿命を全うできず殺処分される」という現実を是正するためのものです。

動物たちは決して、殺されるために生まれてきたわけではありません。

すべての飼われている動物の命は、飼い主に託されています。

※なお、ペットを捨てた場合、100万円以下の罰金もしくは1年以下の懲役です。

殺害をした場合、500万円以下の罰金もしくは5年以下の懲役になります。

※以下、動物の愛護及び管理に関する法律より抜粋

(目的)

第一条 この法律は、動物の虐待及び遺棄の防止、動物の適正な取扱いその他動物の健康及び安全の保持等の動物の愛護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操のかん養に資するとともに、動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害並びに生活環境の保全上の支障を防止し、もつて人と動物の共生する社会の実現を図ることを目的とする。

(基本原則)

第二条 動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。

 何人も、動物を取り扱う場合には、その飼養又は保管の目的の達成に支障を及ぼさない範囲で、適切な給餌及び給水、必要な健康の管理並びにその動物の種類、習性等を考慮した飼養又は保管を行うための環境の確保を行わなければならない。

(動物の所有者又は占有者の責務等)

第七条 動物の所有者又は占有者は、命あるものである動物の所有者又は占有者として動物の愛護及び管理に関する責任を十分に自覚して、その動物をその種類、習性等に応じて適正に飼養し、又は保管することにより、動物の健康及び安全を保持するように努めるとともに、動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、生活環境の保全上の支障を生じさせ、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない。この場合において、その飼養し、又は保管する動物について第七項の基準が定められたときは、動物の飼養及び保管については、当該基準によるものとする。

 動物の所有者又は占有者は、その所有し、又は占有する動物に起因する感染性の疾病について正しい知識を持ち、その予防のために必要な注意を払うように努めなければならない。

 動物の所有者又は占有者は、その所有し、又は占有する動物の逸走を防止するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

 動物の所有者は、その所有する動物の飼養又は保管の目的等を達する上で支障を及ぼさない範囲で、できる限り、当該動物がその命を終えるまで適切に飼養すること(以下「終生飼養」という。)に努めなければならない。

 動物の所有者は、その所有する動物がみだりに繁殖して適正に飼養することが困難とならないよう、繁殖に関する適切な措置を講ずるよう努めなければならない。

 動物の所有者は、その所有する動物が自己の所有に係るものであることを明らかにするための措置として環境大臣が定めるものを講ずるように努めなければならない。

 環境大臣は、関係行政機関の長と協議して、動物の飼養及び保管に関しよるべき基準を定めることができる。

罰則

第四十四条 愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。

 愛護動物を遺棄した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

 愛護動物に対し、みだりに、その身体に外傷が生ずるおそれのある暴行を加え、又はそのおそれのある行為をさせること、みだりに、給餌若しくは給水をやめ、酷使し、その健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束し、又は飼養密度が著しく適正を欠いた状態で愛護動物を飼養し若しくは保管することにより衰弱させること、自己の飼養し、又は保管する愛護動物であつて疾病にかかり、又は負傷したものの適切な保護を行わないこと、排せつ物の堆積した施設又は他の愛護動物の死体が放置された施設であつて自己の管理するものにおいて飼養し、又は保管することその他の虐待を行つた者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

 前三項において「愛護動物」とは、次の各号に掲げる動物をいう。

 牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる

 前号に掲げるものを除くほか、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は虫類に属するもの

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